『喫茶’夜’へようこそ』
【プロローグ】
真っ暗闇を一人飛んでいるような、孤独で寂しく、世界に私だけ取り残されている感覚。
こんな感覚に陥ってしまうのは、いつだって残業終わりの真夜中、会社近くの住宅街を一人トボトボ歩いているそんな時だ。
さっきまで降っていた雨が止んだことに気づき、折り畳み傘をバックにしまう。
こんな日は甘くて綺麗なご褒美を食べるに限る。
私は帰り道にあるコンビニに行こうと考えていた時、後ろから猛スピードの車が歩道すれすれのところを走ってきた。
「わっ!」、さっきの雨で歩道と車道の排水溝からあふれていた水たちが、猛スピードの車から逃げるように私に覆いかぶさってくる。
「最悪だ・・・・。」
びしょびしょになった髪の毛を拭くために、バックからタオルを取り出そうとするが、バックの中にタオルは見当たらない。
「あぁ、休憩時間でお昼寝するときに使ってそのままデスクの引き出しに入れちゃったんだ・・・。ついてないなぁ。」
しょうがない。気持ちを切り替えて、コンビニに向かおう。
社会人になり、家賃3万5000円のアパートの前にあるコンビニに通う頻度が以前の倍以上になっている。
社会人になる前はコンビニなんて月に1回行くか行かないかだったのに、今では週に3回は行っている。
以前はカフェやお菓子屋さんに毎週のように通っていたが、営業職となり故郷から遠く離れたこの県内の営業先を回る生活となってからは、そういったお店から足は遠のいてしまっている。
夜9時、10時に営業しているカフェやお菓子屋さんなんてないのだ。
だから、私はコンビニに行くしかないのだ。
あぁ、誰か夜も美味しいお菓子が食べられるお店を作ってくれないものか。
そんなことを考えていたらコンビニについたので、いつものように店員さんの前を通らないように、雑誌コーナーを回って、スイーツコーナーに行く。
そこで異変に気付く。
ない。
甘いものが一つもない。全て売り切れてしまっている。
「あぁ、なんて私はついてないんだ・・・。」
コンビニを出て、アパートまで歩く。
さっきまで消えかけていた、真っ暗闇を一人飛んでいるような、孤独で寂しく、世界に私だけ取り残されている感覚が強くなっていく。
この感覚に強く襲われると私は決まって空を見上げる。
いつもそこには、この時代には飛んでいるはずがない郵便機の姿が見えるのだった。
【第一話】始まりのバナナケーキ
【第二話】ご褒美のウィークエンドシトロン
【第三話】気持ちを伝えるレモンケーキ
【第四話】空元気のマサラチャイ
【第五話】夜明け前のジントニック
【最終話】夜明けのあとのおむすび
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